YOUBOX from Micronesia vol.1

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日本からミクロネシア連邦へは、グアムでから“アイランドホッパー”と呼ばれる飛行機に乗り、4つの州(ヤップ、チューク、ポンペイ、コスラエ)をホッピング(つまりは各駅停車)しながら目的の島へと向かう。機内は、ローカルバスかと思うほど席など気にする人などおらず、出だしから結構なカオスを感じられる。1520年代にスペインのマゼラン一行に発見されるまで、資源にも乏しかった為ヨーロッパ諸国からは忘れ去られていたこの島々。スペインからドイツ、日本の統治時代を経て戦後はアメリカの信託統治下になったものの、1986年からは自由連合関係になっている。
さて、最初の目的地はミクロネシア連邦では一番大きい火山島で、面積約334㎢という淡路島の3/5くらいのサイズ感の首都ポンペイ。約30年間に及ぶ日本統治時代には、現地人よりも日本人が多くなっていた時もあったため、今でも佐藤さんという名前の人がいたり、「俺は半分日本人だ」っていうものすごく日本人ぽくない人たちに多く会う。
そもそも、「ミクロネシアってどこ?」なんて言っていた1週間後にはポンペイにいた私。今回のYOU BOXは、色んな出会いと偶然によって彩られた、色気はないけどある種のグロテスクさと生の美しさと温かさに満ちた「ポンペイ・コスラエ大冒険」のお話。

ナチュラルにローテンションになる魔法の泥

今回唯一のコンタクトパーソンであるランディに、現地の食やライフスタイルが知りたい旨を伝える。すると彼は、フライトが到着したその日「今日の夜、サカウの会をするよ」と言う。サカウとは、その鎮静効果からヨーロッパなどで規制されている地域も多いけれど、こちらでは友人や家族が集うとき、お葬式などの大切な場で飲まれる木の根のエキス。どんどんとジャングルのなかに車を走らせ、お尻の部分が破れたワイルドなおっちゃんを捕獲。そしてさらに進んでいくと、大自然のなかにぽつんとおウチが見えてきた。「このあたりのサカウは良質なんだ」とランディ。そして、大抵の家に1台あるという大きな石の上にサカウの根を置く。そして、何人かの男性が囲み、石で叩いて細かくしていく。トントン、コンコンと示し合わせたように、どこかの民族の音楽かのようにリズムが重なり合い静かなジャングルに響く。その隣では、あの尻が破れたおっちゃんがハイビスカスの木を切って来て「むぬんっ」と獰猛な感じで皮を剥き、表皮の内部だけ使うという。
石の上のサカウがだいぶモケモケしてきたところで、おっちゃんは水にさらしたハイビスカスの皮をごしごしとこすり、ぬめぬめした液体を捻出する。モケモケの上にぬちゃっと音をたてながらかけて、混ぜる。そして、ぬちゃぬちゃと、こね回す。そしておっちゃんは器用にハイビスカスの皮でサカウをくるくると巻き、汁をだらーっと搾り出す。その泥のような、ねっとりと濃度の高いおぞましい液体は、到底飲み物には見えず不安が一気に襲いかかる。
特に薄めるとかもなく、彼らは飲み始めた。どうやら最も濃い最初の5杯は重要で、①最も位の高い男性②最も位の高い女性③サカウを作っている男性④2番目にくらいの高い男性⑤2番目に位の高い女性の順に飲み、そこから後はみんなでまわし飲んでいく。
飲む時は、目を閉じて飲むのだけれど、神聖な感じというよりは、苦い薬をぐいっと飲む子どものような表情。(飲む前にクリスチャンらしく十字を書いてから飲む人もいた)そして、だいたいその後に水を飲む。「あんまりtastyなものじゃないからさ、口をリンスしないとね」。彼らにとってもやっぱりまずいよう(笑)。
せっかくなので、もちろん私も飲んでみると……。じゅんさいのようなぬめりが最初に来て、細かい粒子のざらりとした舌触りが後からやってくる。味はやはり土臭いレンコンのような根の苦みと青臭いものが混じった味。でも、思ったよりは気持ち悪くない。そして、微妙に舌にぴりぴりとした痺れが来る。そして、何回か口をつけるうちに、なんか鼻水が出てくる。ハイビスカスの皮から出て来た汁は粘膜のようなテクスチャーだったなと思っていたら、ランディもとなりで鼻をぐすぐすさせていたので、どうやらそういうリアクトが出てくるのは私だけではないらしい。
結構大人数なのに、大人たちはどんどん静かになる。「言葉を発する必要はないんだ」。ポエミーなことを言われつつ、めちゃくちゃ眠くなっている自分に気がつく。(さすがに私はかなり緊張状態だったため寝ることはなかったけど)味わうというよりも、体で感じる飲み物。(次の日は風邪のような症状に見舞われた)味を表現したくて何度も飲んでみたんだけれど、ひとまず、体験してもなおあれは何だったんだろうという感情が拭えない。「初めてで、しかも日本人でこんなに飲んだ人はいないよ、やるね」と言われて、そんなに飲まなきゃ良かったと後悔。

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