YOUBOX from SPAIN vol.3

雨の似合うスペイン

 学生時代スペインに少し住んでいたとき、パウロコエーリョの『星の巡礼』を読んでその存在が気になっていた”El Camino de Santiago”(サンティアゴ巡礼という、四国のお遍路さんのスペイン版のようなもの)。とうとう、(残念ながら歩いてではなく、フライトで)訪れる時が来た。サンティアゴ・デ・コンポステーラで降りると、ここを目指して歩いて来た世界中の老若男女と出会う。タパスを食べながら、隣に座っていた国連で働くカナダ人女性と話していると、彼女の息子が、大変興味深い食のイベントをモントリオールで仕掛けていることが分かり、またぜひカナダで会いましょうという話に。ふと話してみると、思わぬ出会いとなったりする。
 ガリシアは交通の便が悪く、古代ローマ時代から「地の果て」と呼ばれていた場所。天候は雨が多く、寒くて暗い。自然の在り方も、どことなくアイルランドに似ているよう。「ガリシアの音楽をきかせてあげるよ」と友人のサイモンが曲を再生すると、確かにアイルランドっぽいバグパイプに似た音の、ガイタという名の楽器が演奏され始めた。楽しかった車内が一気に悲しげなムードになるような音楽だ(笑)。ガリシア語は私の知っているスペイン語と全く異なり、若い人は普通にスペイン語を話しているみたいだけど、それでも、なんだか歌うように流れるように話すその言葉に聞き入ってしまって、内容を理解するのが少し遅れる。ポルトガルに近いから、ポルトガル語にとっても似ているのだとか。
 そして、サイモンの奥さんの実家にお招きいただき、私が日本食もどきを振る舞う。そして、食後はQueimada。ワインを作ったあとのブドウの皮を蒸留したお酒Orujo(イタリアのグラッパに近い)を素焼きの器に入れ、砂糖とレモンの皮やフルーツとコーヒー豆を入れて火をつけ、呪文を唱えながら火が消えるまでかき混ぜ、みんなで飲む。何とも不思議な飲み物だ。Queimadaという特有の文化を持つガリシアでは、海賊たちの伝説や魔女の伝説が残っていたりする。このQueimadaも、昔は魔女や魔物を追い出す儀式だったとか。青い炎と歌うような呪文はなかなかに神秘的で、スペインの新たな一面に触れられた気がする。

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マノリータのカルドガジェゴ

 そのまま北上して、海沿いの町アコルーニャへ。活気のあるおおきな市場を訪れ、サイモンのオフィスでガリシア特有の食材をつまみぐいし、オーガニックアイスのお店でデザードを食べ、食を堪能しながらサイモンのばーちゃんマノリータに会いに行く。
 上品で、部屋だってとても綺麗に整え、写真を見せながらずっと話し続けるマノリータは86歳。仲睦まじいじーちゃんレオはなんと93歳! レオは陸軍にいたので、駐在で家族全員アフリカに3年ほど住んでいたこともあるそう。レオの長生きの秘訣はやっぱりばーちゃんの料理で、特にタマネギを毎日食べるのが良いらしい(笑)。
 さて、この日に作ってくれたのは、ガリシアが貧しかった時代から現代まで、人々が毎日食していると言う、日本の味噌汁のような存在の、「Caldo gallego」。鶏ももと、塩漬けスペアリブと塩漬け豚と少しのラードを入れてぐつぐつ煮ること20〜30分。いい感じに出汁が出て来たらラードを取り出し(これによって彼女のcaldoは他の人のより上品な仕上がりになるという)、小さくスライスしたポテトを入れる。そして、塩とgrelosというこの土地特有の、菜の花とか、大根の葉に煮た味の葉ものを入れ、別で煮た豆も入れてぐつぐつ。さらに20分くらいで出来上がり。お肉はとり出してしまって、そのスープを頂くのだ。(お肉はサンドイッチ等の具になる)2日目も3日目も温め直して食べるんだけれど、日が経った方がコクがでておいしいそう。ポテトをフォークで崩しながら頂くのがこちら流。貧しい土地でお腹にたまり、体を温めるこのスープは、さぞかし土地にあったものなのだろう。味付けはシンプルだけれどお肉のコクが絶妙。日本でも、冬には良いかも。

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