YOUBOX FROM GEORGIA VOL.2

To the east!

さて、これからどこにいこう。どうやらワインは、東のKakheti地方が有名らしいので、ひとまず目指すは、東。タクシーの運転手と難解なお金交渉の末、通じていないであろう会話を続けていると、目の前にブドウを積んだトラックや車が現れはじめました。ブドウの町に近づいてきたみたい。少し賑わいが見えてきた場所で、「ランチ、行こうぜ!」みたいなジェスチャーをしてドライバーは車を停車。妙なところで降ろされたらどうしようかと思っていると、どうやらその日は収穫祭! みんな、食べて飲んで歌って踊って。ふと隣を見ると、なぜかドライバーの家族がそこにいて、家族と一緒にお祭りを楽しむことに。住んでいるエリアごとにブースを出しているようで、売ってるんだか自分たち用なのかわからないけれど、自分たちが作っているワインを振る舞い、塩のみで味をつけたブタやチキンをひと通り恵んでもらい、ドレスアップした男性たちが美しくハモるポリフォニーまで披露してくれた。ジョージアの人たちは、古来から本当に上手に歌うらしく、エリアごとに受け継がれている歌もあるのだそう。(基本言葉を理解できていないから、よくわからず物事が進む。)
Google mapで確認すると、どうやら目的地のSignagiに着いていたようだ。「シェルター」を意味する言葉から名がついたその町は、周囲をぐるっと城壁に囲まれた人口2000人程度のこぢんまりとした美しい町。そして、さすがワインの土地、街中いたるところにブドウがたわわに実っている。その日の宿は、アーティストでありドクターの、スザンナさんのおうち。ロシア語しか話せないお母さんの言葉を一生懸命英語に訳す12歳の娘に胸をきゅんきゅんさせつつ、「ようこそおうちへBBQ」を用頂く。塩をした親鳥を串刺しにしてじっくり焼き、タマネギとザクロのジュースをかけて頂きます。いっぱい走りまわっていたであろうお肉はむっちり締まっており、焼き加減はかりっと香ばしく、ザクロのおかげで爽やかな味の仕上がり。Ekaさんたちもそうだったんだけれど、出会うのは、驚くほどホスピタリティに溢れた人たちばかりだ。
一通り私の興味があることを聞いたスザンナさんが連れて行ってくれたのは、近所のベーカリー。ベーカリーと言ってもその場で売るわけではなく、見晴らしの良い土地で受注分を毎日焼いておろしている。「50年間毎日パンを焼いているの。多い日は1日に2回」とベネラばーちゃんとザウリじーちゃん。ざっくりわけるとジョージアの西はご飯、東はパンが主食のようで、この辺りの食卓にはパンが欠かせない。短くて大きな煙突のような窯でたくさんの枝を燃やすのはザウリじーちゃんの仕事。火が落ち着いて灰になって来たところで、水につけた布で中をさっとふき(普通の人は手が入れられないほどの高温)、パンを楕円形に成形してペタッと貼付けるのはベネラばーちゃんが行う。反り返ったボート型のこのパン。焼き方はナンに近いけれど、外はナンよりカリッと焼かれ、なかの食感はフォカッチャに近い印象。Signagiでしか作られないと言う「ナズキ」は、バター、小麦粉、砂糖、フラ
イドオニオンに少しのバニラエッセンスを入れたものを同じ生地で丸く包み、同じくペタッと貼って焼いたもの。甘さの中にフライドオニオンの香ばしさが良いアクセントとなり、大変美味。「1ヶ月持つわよ~」の言葉に、YOU BOX用にこれを大量に持って帰ろうかと本気で悩んだけど、衛生面等色々ギリギリそうなので(笑)、泣くなく諦める。
次の日は、走り出したくなるほどの快晴。早起きして「ガーマルチョーバ!(こんにちは)」と覚えたてのあいさつをすると、とてつもなくフォトジェニックなおばあちゃんが、にぱっと笑って家に手招きしてくれます。よくわからないジェスチャーと音声で通信し、最後にはこれでもかってほどブドウを持たせてくれる。後から知るのだけれど、ジョージアには「お客様は神様からの贈り物」という概念があるよう。何の警戒もなくするっと家に入れちゃう場所もこれまた久しぶりすぎて、驚いてしまう。近所のお家では、ふたりのおばあ
ちゃんたちがジョージアの名物スイーツ「チュチェラ」を作っているところ。ローストしたくるみやヘーゼルナッツを糸に通し、ブドウのジュースを煮詰めたものと小麦粉と合わせて、もったりさせた生地につけて6日間陰干しするのだそう。ブドウの種類によって色
が変わったり、粉の配合やジュースをどの程度煮詰めるかによっても味や出来映えが変わってくるのです。この後にもいくつか作っているおばあちゃんの元を訪れるも、このおふたりが作っているものが甘さも上品で粉の割合も少なく素材本来のリッチな味わいが格別。しかし、たくさんあるものを工夫してスイーツをつくり、しかもそれが芋虫型だなんて、なんてクリエイティブなんだ!

Georgia

Georgia

Out of Control!!!!

スザンナさんの父ナダールさんは少し英語が話せるため、色々と話しかけ、彼のおすすめを片っ端から紹介してくれる。人の家で積んできたという花束を手渡してくれることから始まり(この後も、何度も人のお家に咲く花を頂いた(笑))、彼の大好きな詩人の博物館に連れて行ってもらい(もちろん1ミリもわからない)、ばーちゃんから習いたいと言っていたソースは「むしろ僕が上手だから、つくってあげるよ!」と申し出て頂き、「最高に美味しいジョージアンな昼食を、テラスで食べよう」と誘われたら、そう、広い屋上にポツンと置かれた椅子のないテーブルの上に、ブタ肉のBBQとパンが3切れ。彼は、いつだって私の想像の斜め上をいって常識
を揺さぶってくれる。
ところで、私はみんなが毎日お家で作っている「マツォーニ」(日本のプレーンヨーグルトよりほんの少し酸味が強い)を毎朝食べる楽しみにしていた。その菌がどこから来ているのか、どうやって作ってるのか気になって、農家さんを訪ねたいなーと話していた夜、「牛を一匹買っている女性がいるから、そこに行こう!」とスザンナさんが電話すると、「いつもならいいんだけど、さっきから牛がなぜか見当たらないの」と冗談のような回答。再度30分後、そして1時間後にかけるもまだ牛は迷子のよう。そして翌朝に行こうとの約束を取り付けるも、翌朝何事も無かったかのように誰も現れなかったのは、もはや予想の範囲内(笑)。その後現れたナダールさんは私の肩をポンとたたき、笑顔で一言「明後日、一緒に行こうよ」。
もともとないんだけれど、「計画」なんて立てても全く意味はなく、思い通りに行くなんておこがましい。あまりに全てがOut of control過ぎて、途中若干心が折れそうになっていた私も、テラスにポツンと置かれたBBQセットを見た瞬間から全てがギャグのように思えてきて、いや、むしろ思い通りに事が運んだら全然楽しくないじゃないか! と思うようになっていた。もう、無敵だ。マツォーニを諦め、今度はSignagiで出会った同年代のロシア人女子たちと、北の山の方、Kazbegiを目指すことにした。

Georgia2

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To the North!

Signagiで仲良くなったタクシードライバーのジェーナさんに、Kazbegiまで連れて行ってもらうことに。Google mapで見ると、4時間程度の道のり。早朝出発してコーヒーを買って飲みながら、町の景色を静かに眺める。気のいいジェーナさんは、自分のおすすめの場所を見せたい! と、いろんな場所で車をとめてくれる。そこで出会ったのは、壮大過ぎて言葉も出ないほどの大自然、美味しくて暖かいご飯に、美しい教会、山の上の教会、うらびれた教会に……(教会づくしだ!)。朝出発して6時間以上車で走り、山がごつごつしてきたとき。ふと目の前に現れたのは羊の群れ。時速10Kmくらいの早さで群れを連れて進む羊飼いのおっちゃんに話を聞くと、なんと私たちが目指す町からきて出発した町に行くと言う! 一体どれだけ時間がかかるのかと尋ねたら、「んー、5日くらいかな」とさらり。この後も同じようにSignagiを目指す牛の大群にも出くわし、なんて非効率的で、気が遠くなることだと思ったものの、人の心は広くなるし、羊や牛はその辺の草を食べてゆったり歩いて美味しくなりそうだし、案外こちらの方が効率的だったりするのかもしれない。
4時間程度の道のりのはずなのに気がつくとあたりは既に暗く、25℃くらいの過ごしやすい気候は、車から出られないほどの寒さに変わっていた。(このとき、外の気温はなんと3℃!!)寒さには慣れていて、私とは比べ物にならないほど余裕な顔をしたロシア人たちとその晩の宿の話をしていると、ジェーナさんが「ああ、宿ならもうとってあるから安心しな」と、なんとなく不安になる言葉をかけてくれる。あたりが真っ暗になったとき、彼が予約したと言う宿に到着すると、待っていたのはなんと2頭の牛と、まさにこれから乳搾りをしようとしている女性。しかも、マツォーニをつくるという! プランして願っているときは叶わず、予期していなかったところですんなり叶ってしまうというのが、人生なのかもしれない。12時間見てきた壮大すぎる自然も相俟って、私の精神状態は、「人間なんてちっぽけな存在なんだから、なんでも計画すれば叶うなんて思うなということか」と、悟りをひらき始めるほどになっていた。
蓋を開けると、宿(というか普通の民家)は、ジェーナさんの親戚のおうちだった。どういうわけか、この国のタクシー運転手はいたるところに家族や親戚がいるようだ。搾り立てのミルクをキッチンに置きに行ったママの後を追いかけると、「何にも無くてごめんねー」とか言いながら、色々出してくれる。幼稚園の先生をしているという超絶優しそうなママの本日のメニューは、Khachapur(i ハチャプリ)に似た顔をした「Khabizgin(i ハビジニ)」と呼ばれる丸いパイ。ハチャプリはパン生地のなかにチーズを挟んだものですが、ハビジニはマッシュポテトと作り立てのチーズと塩を混ぜてパン生地の中に入れ、平たくのしてフライパンで焼いたもの。外はさっくり、中はホックリで冷えきった体をじんわり温めてくれる。夏にとれたトマトを塩漬けにしたものや万願寺唐辛子のようなピーマンをピクルスにしたものなども一緒に並び、「ありものでごめんね」と出されたご飯は、大冒険のあとには、これ以上無いほど体に染み込むのだ。ちなみに翌日は、余ったハビジニの具材を同じような皮で包んで茹でたちょっと変わった形のヒンカリにして提供してくれた。
ジョージアの人たちはワインを飲むとき、何度でも、何度でも乾杯します。わいわいしていても一人がふと立ち上がると、みんなしんとなる。神に乾杯の言葉を捧げ、そしてその後、ある時は友情に、ある時は愛情に、そして故郷に……、それぞれの言葉を紡いで、全員にグラスをあわせる。乾杯の言葉もワインも、尽きることは無い。

Georgia2

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