YOUBOX FORM GEORGIA VOL.3

ルスダンさんの「謎の料理」

さて、今回もやってきました、「おばあちゃんのレシピ」のコーナーです。今回は、44年間産婦人科医として働き続け、ご飯も小物も何でも手作りできしまう、手先が器用でとってもお料理上手なルスダンさんから習った「謎の料理」。その名も無き料理を一口食べると、みんな「とっても美味しいけれど、これはチキン? 魚? それともきのこ……?」と、何が入っているのか当てられないのだと言います。
ソ連時代、ジョージアの首都トビリシで生まれ、ウクライナの産婦人科の学校を卒業した後トビリシに戻ったルスダンさん。お母さんの同僚で工業大学で先生をやっていた旦那さんとトビリシで出会い、1ヶ月半で電撃結婚したのだと言います。(「ワーオ、そんなこと聞かれると思わなかった」と言いながら、チャーミングに馴れ初めを話してくれる)当時の国の制度で、卒業後は勤務地を割り振られ本当はウクライナで産婦人科医の職に就くことが決まっていた彼女は、結婚したおかげでトビリシで働くことができたのだとか。お姑さんはジョージアの西の方Imeretiエリア出身で、彼女がイベントや集まりのときなどに作ってくれたのが、「謎の料理」なのだ。作り方は、フェンネルやナツメグ、マリーゴールドの粉など6種類のスパイスを入れてちょっと灰色がかったくすんだ色になった卵を、スポンジ状になるよう弱火でじっくり、ふわっと焼く(固めのスフレのような感じ)。そう、実はその謎の料理の正体は卵。見た目も食感も、確かに一瞬では卵と分かりません。そして、クルミをベースに、コリアンダーやシナモンなど6種類くらいの別のスパイスを入れて作ったスープに浸してサーブします。ルスダンさんは「本当は、翌日の方が味が染み込んで美味しいのよ」とウインク。
確かに美味しくて、どこかほっとする優しい味付けだけれど、さすがにものすごい種類のスパイスが入っているが故、複雑な味が想像力をかき立ててとっても面白い。ご飯とワインを囲み親戚や友人が集う場をとっても大切にするジョージアの人々だから、食事を振る舞う機会も多い。貴重なお肉や魚をどんと使ってもてなすのもひとつだけれど、この「謎の料理」は、テーブルにとびきりの笑顔と会話と楽しさをもたらしてくれます。工夫や思いがたくさん詰まったこの1品は、紛れもないごちそうであり、イベントのときに欠かせない、自慢の一品なのだ。

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ジョージアご飯といえば?

ジョージアのいたる所で頂くことが出来る国民食、「Khinka(li ヒンカリ)」と「Khachapur(i, ハチャプリ)」をご紹介。ヒンカリとは、小籠包のようにスープが入った水餃子のようなもの。家で手作りする人もいればレストランで食べている人もいるけれど、味や中身はさまざま。豚肉、牛肉、羊肉、イモやきのこなどによってスパイスも変わる。ただ、牛のヒンカリを教えてくれたママによると、「一番大事なのは、その場で肉をひくこと」だそう。彼女は、1キロの牛ひき肉にお水とミント、パセリ、ニンニク、チリを入れて混ぜたものを、手作りの皮で包む。大きさはかなり大きくて、3つも食べたらもうお腹いっぱいになるが、男性陣は10個とか余裕で食べるそう。噛むとハーブ香るスープがジュワッと出て来て、エキゾチックだけれどどこか懐かしくてまた食べたくなる味。
ハチャプリとは、チーズを挟んで焼いたパンのことで、まさに日本のおにぎりのような位置づけらしい。それでも、地域によって作り方が異なり、多様なルックスをしています。スタンダードはおそらく、小麦粉、塩、イーストと水でてろっと作ったパン生地に、チーズを挟み、パンケーキのように成形して焼いたもの。それを多めに油をしいたフライパンで焼いたものが一般的なものだとしよう。その上にチーズをかけたもの、生地をボート型に成形し卵をのせたものや、生地自体がもっとパイに近いタイプ、私がKazbegiで出会ったもののように、ポテトまで入っているタイプ(こちらはKhachapuri,ではなくKhabizginiハビジニと呼ばれる)もある。ちなみに、首都トビリシでルスダンさんが作ってくれたのは、生地に卵もバターも練り込んだパイのような生地に、卵とチーズを混ぜたフィリングがうっすら入ったもので、リッチな味わい。バターの入った生地のため、油は敷かずにフライパンで焼いている。毎日の勢いで食卓に並ぶ可能性のある、日常食なのだ。

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今回は計画しようとしても計画すらできず、なかなか英語も通じない。Storyに溢れ説明のできる美味しさや、そういったものを作れる人たちはやはり美しいし大好きだけれど、時には言語を越えて楽しんでしまえるような美味しさに出会うのも良い。言語ありきのコミュニケーションに頼りすぎると、言葉や頭でしか「美味しい」を理解できなくなりそうだ。私は、12時間以上のドライブの末に頂いた、ママが作った名前のないしょっぱいチーズと、ささっとつくってくれたハビジニはやはり格別で忘れられない。お肉が出せないときにも、人を楽しませてもてなすことができる「謎の料理」だって、クリエイティブで大好きだ。
数年前にハワイのカウアイ島を訪れたときに出会った、ホクレア号の船長さんたちを思い出す。風と人の力のみでハワイから日本まで5ヶ月程をかけて渡った彼らには、どんなに一見過酷な状況だって最高に楽しんでしまう、からっとした強さがあった。ところ違えど、今回出会った人たちの精神性に、なにか同じようなものを見た気がしてならないのです。同じ材料と同じ道具があって、その上でいかに美味しいものがつくれるかどうかは、技術だけではないはず。どんな状況だって楽しめてしまえば、幸せな美味しさはつくれるのではないか。そんなことを気づかせてくれたジョージアだった。

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