YOUBOX from Micronesia vol.3

コスラエ島のコスラエスープが美味しいって。

「コスラエ島で飲まれるコスラエスープが美味しいらしい」そんな噂を聞きつけて、いざコスラエ島へ。面積は116㎢(伊豆大島の2倍くらい)、小さな島に道は一本しかなく、人もとっても少ない。かわいらしいサイズのマーケットがちょこちょこと並び、ガソリンだって、ボトルから手で入れます。(どうやらメーターの数字だけではどうも信用出来ないらしい)さて今回は、「中村優がコスラエスープを習う」というのがコスラエ観光局の公式イベントとなりまして、私は観光局長であるグラントさんのお家でお世話になることに。なんとも、ギャグのようなお話。グラントさんの母である71歳のミチコさんは、一番美味しいコスラエスープをつくるという。 コスラエは、ポンペイよりも日本語の名前や名称が未だに残っている印象。ミチコさんの今は亡き旦那さんは、ヒロシさんといったらしい。そして、そのお家の目の前に広がるのは美しい海。ダイバーも集まるその場所は、ヒロシ・ポイントという。
干満の差が激しいので、満ちている時は少し波が高いけれど、干潮のときは穏やかで、子どもたちはお手製の釣り糸(えさなし)を垂らすだけで器用に魚を釣ってくる。星はこれでもかというほどに空に散らばり、波の音を聞きながら眠りにつき、そしてニワトリの雄叫びで目を覚ます。実はアウトドア苦手な私も、うっかり好きになってしまいそうな環境で、今回はどんな人たちと出会えるのだろう。

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ワランのモリキ

コスラエにあるワランという場所までは道が繋がっておらずボートでしか行けないため、未だに電気もなく比較的昔ながらの生活が残っている地域。そこに向かうまでのボートからはたくさんのマングローブが生い茂っているのが見え、中を巡ってもらった時も木漏れ日が美しく、ひんやりした空気がとっても心地いい。そんなワランで”モリキ”という伝統的な料理を食べさせてもらうことに。
パンの実を1時間ほどお手製のfire placeであぶり、丸焦げになったパンの実を向いて(女性の仕事)、ココナッツミルクをつけたパンの実でつぶす(男性の仕事)。つくってくれたおっちゃんは、叩いた瞬間にパンの実の善し悪しがわかるのだという。いくつかつぶしたらそれをドーナッツ型に整形し、中にココナッツミルクを入れて焼いた石をジューっと投入。3つほど投入してミルクがぐつぐつとしたところで全部を混ぜて出来上がり。炭の香りとちょっと焦げた香りが鼻孔をくすぐり、なんとも言えずいい感じ。サツマイモのようなホクホク感があるのだけれどねっとりとした甘みが結構好み。そして、隣でぐつぐつとココナッツミルクで茹でてくれたのは、マングローブクラブ。カニがそんなに好きではない私も、初めて超絶うまいと思ったカニ。日本にはないのかな?
きゃぴきゃぴしながら料理のお手伝いをする子どもたちが何食べてるのかなーと覗く。パウンドケーキに菓子パンに、謎のピンク色のおにぎり(笑)。パンの実もイモも美味しいけど、こういう分かりやすいインパクトのある味は抗い難い力強さを秘めているよう。

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ミチコばーちゃんのコスラエスープ

ニワトリの声で目を覚ますと、ちょうどミチコさんが掃き掃除を終え、キッチンで朝食をつくるところだった。「BANANA TEMPURAを作るのよ」とミチコさん。”apet fusus(アーペットフシュース)”という種類のバナナを(美味しかったから覚えた)カットしてドウにつけて揚げる。ドウは、小麦粉と砂糖とココナッツミルク、そして水。テンプラというよりはフリットという感じのそれは、バナナの甘さが引き立って、とても美味しい! そして、ランチにはパパイヤを醤油と砂糖で味付けしたSUKIYAKIや、ライムでしめたマグロの刺身など、ジャパニーズコスラエアンな食卓が現れる。
ミチコさんの旦那さんはvice presidentだったため、彼についてかなり色んな場所へ出向き、政府関係者に会ってきたミチコさんは、英語もかなり流暢。考え方も柔軟でオープンだし、「出会って4ヶ月で電撃結婚したのよ〜、うふふ」とチャーミングに話す。いつも、「私、働くのがだーいすきなの」と言いながら楽しそうに掃き掃除をし、ほとんど椅子に座ること無く常に何かをし、たまに座ったと思うと聖書を読んでいる。そんな彼女が尊敬して、見習おうとしていたのは、”Japanese ladys”の立ち振る舞いなのだとか。
コスラエは、19世紀に捕鯨船が立ち寄るようになってから様々な疫病などが持ち込まれ、何千もの島民が亡くなった。そして、そんな折にキリスト教宣教師たちが現れ、西洋の薬等で疫病などから人々を救ったため、急速にキリスト教が広まり、今でもクリスチャンがほとんどだ。その影響で、日曜日は安息日。その日は教会に行くだけで働かず、火を起こすこともよくないとされる。そこで、安息日には前日に仕込んだコスラエスープを食べるというのが、習わしです。
各家庭でそれぞれにレシピや味が違うらしく、なかでも島で一番美味しいと紹介されたのが、ミチコさんのコスラエスープ。
①お米を洗って水に少し浸す。
②マグロを水から煮る(塩を少々入れておく)。ここで使ったマグロは、30cmくらいのサイズの物で、骨も一緒に入れてぐつぐつ。日本で作る場合は、マグロ節等で出汁をとるとおいしくなる。(鰹でやっても美味しかった)
③別のお鍋でおかゆを作ります。少し煮たところでタマネギを少々入れて、またぐつぐつ。
④②の出汁を③に投入。そして、身もほぐしながら入れる。
⑤ココナッツミルクを搾って塩味を整え、少し煮て出来上がり。
みんなが来ている教会用のドレスを貸してもらいミチコさんと一緒に教会に行った後、お待ちかねのコスラエスープの時間。「伝統的には、こうやって飲むのよ」と、スプーン等を使わずそのまますするミチコさん。そうやって私も飲んでみると、何とも優しく出汁も日本的で美味しい。これは、日本でつくっても、絶対みんなおいしいと言ってくれるだろうなという親しみのあるお味。私にはなんの信仰もないし、色んなものを食べたいと思っていたけれど、ミチコさんをみていると、こういう習慣があるのはなんだかとっても美しいなと思える。

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グラント、男の料理

ミチコさんの息子であり現在コスラエ観光局長を務めるグラントさん。いつもにこにこしていてユーモアセンス抜群の彼は、アウトドア料理だって大得意! 今回は、“ウム”と言う伝統的な石蒸し料理を教わることに。まず、庭のアウトドア・キッチンで、石と一緒に火をがんがん起こす。乾燥させた若いココナッツの実の皮は、本当によく燃えるので着火材として重宝する。火が落ち着いてきて熱々の石と炭状になった木片だけが残ったところに、半分にカットしたパンの実と、火が通り過ぎないようにタロイモの茎を繊維状にしきつめた上に房ごとのバナナ、そしてアルミで包んだ魚を並べる。バナナの葉を全体に覆うように乗せ、じっくり蒸し焼きに。あたりが暗くなって来た頃、葉を取り外すところをわくわくしながら見ていると、バナナが少し黒ずんだだけでほぼ変化のない状態の素材が現れる(笑)。しかし、さすがはこの丁寧なスロークッキングの威力。出来上がったパンの実のむっちりとなめらかな食感とバターのようなコクは、食べる人をとろけさせるほどのエロさを秘めていた。バナナも甘みがとろっと引き立ち病み付きになる美味しさだし、魚は実がふっくらとジューシーに出来上がっている。手間も時間もかかるけど、これはもう一度どこかでやりたいと思える料理。
そして、私が日本へ帰る前日の夜は、「最後の晩餐だ!」と、“ファーファ”と呼ばれる伝統料理を作ってもらいました。茹でたタロイモを特別なマッシャーでつぶして、甘いココナッツミルクをかけて頂く神聖な料理。なんとこの一見シンプルでなんのシークレットもなさそうなファーファ、実は作る過程にタブーがあるのだ。特別な日にしか作ることが出来ず、しかもファーファを作ることの出来る家は決まっていて、誰もが作れるものではない。そして、その作る過程は一子相伝であり、見せたり教えたりしてはいけないのだそう。私もグラントを見たときには既につぶし終わり、最後に上の方からココナッツをかけているシーンだった。作る過程は見ていないけれど、見ていた他の人たちの空気感からも、なんだか神聖な感じで作られていたのであろうことだけは分かる。マングローブクラブや魚も並び、大変豪華な最後の晩餐に。こんなに時間をかけて作られる食卓ってやっぱり特別で、たとえ一瞬で食べ終えてさくっと席を離れてしまおうとも(彼らは、こちらが名残惜しくなるほど食べ終わるのが早い笑)、その余韻は私の中に残る。多大な時間をかけて作られた料理は、美味しいとかまずいとかの前に、やはり尊く美しい。食後、グラントさんの奥さんであるケニェさんがウクレレを持って来て、聞いたことのない「日本の歌」をミチコさんたちと歌ってくれる。素敵な家族過ぎて、心ももれなく満たされる。最後の別れ際、若干涙目なミチコさんを見て、はて、YOU BOXって一体なんの企画だったっけと笑ったのだけれど、やはり嬉しく、その後も写真を見返してはにやついているのは言うまでもない。

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